これからしばらく不定期で
雨の思い出 最終章
何も面白いものなど無いだろう俺の話を最後まで黙って聞き終えると、
彼女は優しく微笑み、やはり私の目と感覚は正しかったと言った。
彼女曰く、俺の身の上での跡継ぎ問題も精神の束縛に繋がり、
それを期待する人間の無意識の重圧というのは辛いものだと。
そういうものなのかも知れないが、その時はどうでも良かった。
同情されるのはあまり好かないが、彼女の好意が嬉しかったから。
彼女もそう。
一般人が味わう事のない孤独感や重圧に耐え、一人で生きて来た。
周囲が世間が強制する流れの中で、自分だけを頼りに生きて来た。
だから口だけの同情や社交辞令的な温い言葉をその身で受けて来た。
張り詰めた糸のように生きて来た故に見せなかった弱い本心は、
その糸が切れた時に一気に溢れ出て、感情が理性を支配する。
他人にすればただの傷の舐め合いだろう。
しかし、深手を負うまで傷を癒す事がなかった二人にとって、
最早一般論などどうでも良く、感情の赴くままに身を委ねた。
灼ーけた肌をかーらめー 口付けしーたサーマターイム
身も心ーもすーべて きーみに捧ーげた恋ーだーったー
どれだけ時間が経ったかわからないが、気付けば夜明けだった。
そして、俺が帰らねばならぬという事を彼女はすぐに察した。
帰り支度をする俺に、彼女は後ろを向いたまま話しかける。
「貴方はきっとこれかたも耐え続けるのだと思う。
でも、傷つくまで耐える必要は無い。
疲れたから少し休むためだけでもいい。傷つく前に休めばいい。
私はずっとここにいる。貴方の望む姿のままここにいるから…」
そう言うと彼女は振り返って俺に一つの鍵を手渡した。
「貴方がまたここへ来てくれる事を私は望む。
私は今まで同様これからも孤独に生き抜く。
だからいつか必ず、貴方をを欲する時が来るでしょう。
でもその時は、今夜のような会い方はしないと思う。
何故なら私は貴方と言う存在の本質を知ったから。
次からは慰める為ではなく、癒される為に出会いましょう」
そう言い終えた彼女の顔に笑顔は無かった。
朝を迎えるまで終始微笑を絶やさなかった彼女が、涙を浮かべる。
そんな彼女を見た俺は、
「今夜の事も、今こうしているのも、この手にある鍵も夢じゃない。
もし夢だとしてもまた見に来るし、見させに来るよ。
何より貴女に、現実である証を残させてもらったから」
などと言う、俺の口から出たとは思えないクサイ台詞を吐いていた。
そして暫しの別れを惜しんだ後、最後の痕を残して彼女の家を去る。
背後から「いってらっしゃい」という声が聞こえた。
また以前の笑顔に戻っていた。彼女には笑顔が似合う。
俺もまた「行ってきます」とできうる限り笑って返す。
悪くない。
そう、悪くない気分だ。
―終わり―
彼女は優しく微笑み、やはり私の目と感覚は正しかったと言った。
彼女曰く、俺の身の上での跡継ぎ問題も精神の束縛に繋がり、
それを期待する人間の無意識の重圧というのは辛いものだと。
そういうものなのかも知れないが、その時はどうでも良かった。
同情されるのはあまり好かないが、彼女の好意が嬉しかったから。
彼女もそう。
一般人が味わう事のない孤独感や重圧に耐え、一人で生きて来た。
周囲が世間が強制する流れの中で、自分だけを頼りに生きて来た。
だから口だけの同情や社交辞令的な温い言葉をその身で受けて来た。
張り詰めた糸のように生きて来た故に見せなかった弱い本心は、
その糸が切れた時に一気に溢れ出て、感情が理性を支配する。
他人にすればただの傷の舐め合いだろう。
しかし、深手を負うまで傷を癒す事がなかった二人にとって、
最早一般論などどうでも良く、感情の赴くままに身を委ねた。
灼ーけた肌をかーらめー 口付けしーたサーマターイム
身も心ーもすーべて きーみに捧ーげた恋ーだーったー
どれだけ時間が経ったかわからないが、気付けば夜明けだった。
そして、俺が帰らねばならぬという事を彼女はすぐに察した。
帰り支度をする俺に、彼女は後ろを向いたまま話しかける。
「貴方はきっとこれかたも耐え続けるのだと思う。
でも、傷つくまで耐える必要は無い。
疲れたから少し休むためだけでもいい。傷つく前に休めばいい。
私はずっとここにいる。貴方の望む姿のままここにいるから…」
そう言うと彼女は振り返って俺に一つの鍵を手渡した。
「貴方がまたここへ来てくれる事を私は望む。
私は今まで同様これからも孤独に生き抜く。
だからいつか必ず、貴方をを欲する時が来るでしょう。
でもその時は、今夜のような会い方はしないと思う。
何故なら私は貴方と言う存在の本質を知ったから。
次からは慰める為ではなく、癒される為に出会いましょう」
そう言い終えた彼女の顔に笑顔は無かった。
朝を迎えるまで終始微笑を絶やさなかった彼女が、涙を浮かべる。
そんな彼女を見た俺は、
「今夜の事も、今こうしているのも、この手にある鍵も夢じゃない。
もし夢だとしてもまた見に来るし、見させに来るよ。
何より貴女に、現実である証を残させてもらったから」
などと言う、俺の口から出たとは思えないクサイ台詞を吐いていた。
そして暫しの別れを惜しんだ後、最後の痕を残して彼女の家を去る。
背後から「いってらっしゃい」という声が聞こえた。
また以前の笑顔に戻っていた。彼女には笑顔が似合う。
俺もまた「行ってきます」とできうる限り笑って返す。
悪くない。
そう、悪くない気分だ。
―終わり―
雨の思い出 終章
少しだけ待っていてくれと言い、彼女は奥の部屋へ入って行った。
その時、一瞬見えたその部屋の中には祭壇らしきものが存在し、
彼女の顔立ちや雰囲気などから、俺の中で出身がほぼ合致した。
出て来た彼女は俺が言うか言うまいか迷っている事を読んだかのように、
自分の出身国、宗教、そして何故日本に来たかという身の上話を始めた。
彼女の名前はイリーナ・セメク・イル・サハロ(仮名)
意味が無いので以下も“彼女”で表記する。
彼女の母国は差別と言われても仕方ないくらい宗教の格式にに厳しい。
日本で差別だとほざいてる輩に世界を知れと言いたいほどの厳しさである。
彼女はそういう環境で二十数年生きて来た。
そうする事が当然と言う社会の中でも疑問や不満を抱く事もある。
伝統を守る事は大切な事だが、それが人を縛るようではいけない。
特に精神の救済である宗教が精神を束縛するのは本末転倒である。
そう考えた彼女は一族の反対を押し切って単身日本に来たそうな。
日本には国教は一応存在するも、冠婚葬祭程度の儀礼宗教でしかなく、
そういう意味で彼女の求める国柄としては一番近かったのかもしれない。
しかし、来てみれば日本は偏見・先入観に囚われた人が多く、
皿に全国的な就職難だった事もあり、生活がままならなかった。
それでも日本にいとどまって生活しようと彼女は決心していた。
だからお金になるならば職を選びはしなかった。
そこまで話されてふと疑問に思った。そして聞いた。
今も母国の宗教を捨てきれないのは、すがれるものが無かったからだろう。
だが、何故そこまでして日本にいようと思うのか?
何故俺にこうまで良くしてくれるのか?
前者には自分でも何でかわからないと笑って答え、
後者には自分と同じプラーナだったからと答えた。
互いに何かから逃げ出した者同士である事に変わりは無いが、
俺の逃げ出した理由など矮小極まりなく、恥ずかしくなった。
そう言った俺の手を取り彼女は言う。
逃げたいと思う事は誰にでも出来るが、行動を起せる人は少ないと。
何で俺がそうまでしたかったのか、今度は俺の話を聞かせてくれと。
そして俺は自分の話を始めた。
その時、一瞬見えたその部屋の中には祭壇らしきものが存在し、
彼女の顔立ちや雰囲気などから、俺の中で出身がほぼ合致した。
出て来た彼女は俺が言うか言うまいか迷っている事を読んだかのように、
自分の出身国、宗教、そして何故日本に来たかという身の上話を始めた。
彼女の名前はイリーナ・セメク・イル・サハロ(仮名)
意味が無いので以下も“彼女”で表記する。
彼女の母国は差別と言われても仕方ないくらい宗教の格式にに厳しい。
日本で差別だとほざいてる輩に世界を知れと言いたいほどの厳しさである。
彼女はそういう環境で二十数年生きて来た。
そうする事が当然と言う社会の中でも疑問や不満を抱く事もある。
伝統を守る事は大切な事だが、それが人を縛るようではいけない。
特に精神の救済である宗教が精神を束縛するのは本末転倒である。
そう考えた彼女は一族の反対を押し切って単身日本に来たそうな。
日本には国教は一応存在するも、冠婚葬祭程度の儀礼宗教でしかなく、
そういう意味で彼女の求める国柄としては一番近かったのかもしれない。
しかし、来てみれば日本は偏見・先入観に囚われた人が多く、
皿に全国的な就職難だった事もあり、生活がままならなかった。
それでも日本にいとどまって生活しようと彼女は決心していた。
だからお金になるならば職を選びはしなかった。
そこまで話されてふと疑問に思った。そして聞いた。
今も母国の宗教を捨てきれないのは、すがれるものが無かったからだろう。
だが、何故そこまでして日本にいようと思うのか?
何故俺にこうまで良くしてくれるのか?
前者には自分でも何でかわからないと笑って答え、
後者には自分と同じプラーナだったからと答えた。
互いに何かから逃げ出した者同士である事に変わりは無いが、
俺の逃げ出した理由など矮小極まりなく、恥ずかしくなった。
そう言った俺の手を取り彼女は言う。
逃げたいと思う事は誰にでも出来るが、行動を起せる人は少ないと。
何で俺がそうまでしたかったのか、今度は俺の話を聞かせてくれと。
そして俺は自分の話を始めた。





